アルバム概要
セカンドアルバム発表後にデイヴ・メイスンが脱退、メンバー3人は数曲のレコーディングを試みたがアルバム完成までには至らず、1968年の暮れにはトラフィックは活動停止状態にあった。スティーヴ・ウィンウッドはクリームを解散したエリック・クラプトンの誘いを受け、翌年の2月頃からアストン・ティロールドにて気ままなセッションを開始、これがブラインド・フェイス結成へと繋がった。その他のメンバーはクリス・ブラックウェルの進言により、キーボーディストのミック・ウィーヴァと組み、メイスン、カパルディ、ウッド&フロッグを結成した。ウィーヴァはワインダー・Kフロッグ名義でアイランド・レコードと契約していた人物。このユニットは、68年暮れから翌年の2月頃までライヴ活動やBBCへのレコーディングを実施、ギグでは主にデイヴの曲を演奏していたようで、ジミ・ヘンドリクスやソフト・マシーンのサポートをしたという記録もある。解散後デイヴは再びアメリカに渡り、デラニー&ボニーらと行動を共にした後、初ソロアルバム Alone Together の制作に着手した。クリス・ウッドはドクター・ジョンのツアーに参加し、ジム・カパルディはセッション・ミュージシャンとして仕事をしていた。
このような状況の中でアイランド・レコードは、メンバーの制作意思を伴わずにサードアルバムを企画。収録曲のストックに乏しかったので、アルバムのAサイドがシングルと未発表曲によるスタジオ録音、Bサイドがフィルモア・ウェストでのライヴ録音という変則的な構成で、69年5月に本作をリリースした。そのため前2作のような完成度は望めないが、スタジオ録音曲は各メンバーの多種多様な音楽性が示されたクオリティの高い内容で、ライヴの2曲はこの時期のトラフィックの貴重なステージの記録となっている。プロデューサーはジミー・ミラーだが、レコーディングに関する詳細表記はなくエンジニアのクレジットもない。ジャケットはジムが女の子の手を引く英国仕様と、トラフィックのロゴを大きく配した米国仕様とでデザインが異なっている。裏面ジャケットのイラストは意味深で、ライムをかじるスティーヴと砕けたトラフィックのシンボルが描かれている。国内盤紙ジャケCDは英国仕様のデザインを採用し、輸入盤リマスターCDは米国仕様のデザインも内封している。
収録曲について
Just For You はクリスのフルートが入ったポップ・フォーク調の曲。1968年2月にデイヴの初ソロシングルとしてリリースされ、カップリングの Little Woman と共にファミリーのメンバーが録音に携わっていると思われる。シングルのプロデューサーはデイヴ自身だが、本作では全曲ジミー・ミラー名義となっている。Something’s Got A Hold Of My Toe は、スティーヴ、デイヴ、プロデューサーのジミー・ミラー共作という珍しい組み合わせのインストナンバーで、ギターはデイヴがを弾いていると思われる。このアルバムにしか収録されてなく、録音時期等の詳細は不明。これ以外の3曲はデイヴが脱退していた時期に録音されたもの。Withering Tree は映画 The Touchables のサントラ用に書かれた曲で、フルートとピアノが荒涼とした寂しげな雰囲気を演出する。シングル Feelin’ Alright? のB面曲で、68年2月にオリンピック・スタジオで録音され、エンジニアはエディ・クレイマーが担当。ファンキーでノリのよい Medicated Goo はスティーヴとミラーの共作曲。録音はセカンドアルバム発表後の68年11月に、グリン・ジョンズのエンジニアリングによりオリンピック・スタジオで行われ、12月にシングルリリースされた。そのB面曲 Shanghai Noodle Factory は東洋風の雰囲気を持つ風変わりな曲で、ジムの独創的な詩の世界が展開されている。作曲クレジットに名前のあるラリー・ファロンは、アイランド・レコードなどでプロデュースやアレンジをしていた人物。68年11月に珍しくモーガン・スタジオにて、アンドリュ・ジョンズのエンジニアリングで録音されている。
ライヴ音源の2曲はファーストアルバム発表後に収録されたもの。トラフィックのアメリカにおけるデビューギグはフィルモア・ウェストだったので、時期的にこの音源は、68年3月のフィルモア・ライヴを記録したものと思われる。デイヴの最初の脱退時期にあたり不参加なのでトリオによる演奏だ。Feelin’ Good は英国の名ソングライティング・コンビとして知られるブリカッス=ニューリーの作品で、64年発表のミュージカル「ドーランの叫び/群衆の匂い」の挿入歌として書かれた曲。Blind Man はボビー・ブランドの持ち歌で、トラフィックは68年2月にこの曲をBBCスタジオで録音しているが未発表。この2曲のライヴでは即興性を活かした長い演奏を展開しており、非常に聴き応えがある。スティーヴによるリードオルガンは曲の長さを感じさせないほどにスリリングで、クリスのブルージーでジャズっぽいサックスも、ライヴにおけるトラフィックのスタイルを特徴づけている。トリオによるライヴ・パフォーマンスは公式録音としてはこの2曲しか発表されていない。