EP盤について
スペンサー・デイヴィス・グループはスティーヴ・ウィンウッド在籍時に英国で3枚のEP盤をリリースしている。オリジナルアルバムに未収録の4曲を収めているのが、1965年9月リリースの You Put The Hurt On Me。スペンサー・デイヴィスがリードヴォーカルを歌う She Put The Hurt On Me は、作曲者のローレンス・ネルソンがプリンス・ラ・ラ名義で録音したものがオリジナル。I’m Getting Better はカントリー系シンガー・ソングライターのエド・ブルースの作品で、優美なメロディが魅力のバラード。I’ll Drown In My Own Tears はレイ・チャールズのレパートリーとして有名なソウルバラードで、スティーヴの味わい深いヴォーカルとピアノを堪能できる名演。Goodbye Stevie はメンバー共作による完成度の高いオリジナルナンバーで、スティーヴの軽やかなピアノとパワフルなヴォーカルが印象的。カタログ番号が後にも係わらず、この盤よりひと月前の8月にリリースされたEP盤 Every Little Bit Hurts は、全曲ファーストアルバムで発表済みの曲を収録している。セカンドとサードアルバムの間にあたる、66年6月リリースのEP盤 Sittin’ And Thinkin’ も全曲ファーストアルバム収録曲で構成されている。
シングルについて
スペンサー・デイヴィス・グループのシングルは、ウィンウッド兄弟在籍時に英国にて9枚リリースされている。デビューシングルは、1964年5月発表のジョン・リー・フッカーの Dimples。デビュー以前からギグで頻繁に歌っていた曲だけに息のあった演奏を披露しているが、チャートインせず不発に終わった。セカンドシングルの I Can’t Stand It は、アメリカのスー・レコードに所属する女性デュオ、ソウル・シスターズが歌っていた曲で、UKチャート第47位のマイナーヒットを記録。サードシングルの Every Little Bit Hurts はブレンダ・ハロウェイのモータウンヒットで、UKチャート第41位を記録。キーボードベースのバラードタイプの曲で、ビートグループのシングルとしては異例のセレクトだったが、鍵盤楽器も巧みにこなすスティーヴの存在をアピールするため、ギターリフの曲より難しい作品をあえて選んだとマフは語っている。4枚目の Strong Love はマリバスというカリフォルニアのローカルバンドの曲。ハードなリズムとコーラスが特徴のノリの良いナンバーで、UKチャート第44位を記録した。
5枚目のシングル Keep On Running は、UKチャートでナンバーワンを獲得した出世作。作曲者ジャッキー・エドワーズは、クリス・ブラックウェルが見出したジャマイカ出身のソングライターで、スカのリズムが強調されていた原曲をメンバーがアレンジした。続く2枚のシングルもジャッキー・エドワーズによる同タイプの曲で、Keep On Running ほどのインパクトには欠けていたが、Somebody Help Me は2枚連続のナンバーワンを獲得。スティーヴもソングライティングに加わった When I Come Home は第12位まで上昇した。8枚目の Gimme Some Lovin’ は、UKチャート第2位を獲得したスペンサー・デイヴィス・グループを代表する傑作で、メンバー共作によるオリジナル・ナンバー。特徴ある2音階のベースリフに、スティーヴのハモンドオルガンとソウルフルなヴォーカルが重なる。I’m A Man はトラフィックのメンバーを迎えて録音されたウィンウッド兄弟在籍時のラストシングルで、UKチャート第9位を記録。プロデューサーのジミー・ミラーとスティーヴが共作したこの曲は、Gimme Some Lovin’ と双璧をなす傑作で、数多あるビートグループのヒット曲とは一線を画す、渋さと黒っぽさを伴う秀逸なナンバー。最後の2枚のシングルは英国の3枚のオリジナル・アルバムには未収録だが、67年のべスト盤 The Best Of The Spencer Davis Group に収録された。
1966年11月にドイツ限定でリリースされたシングル Det War In Schöneberg は、戦前ドイツの作曲家ウォルター・コロのオペレッタ Wie einst im Mai からの曲。これにメドレーでシュヴァーベン地方の民謡 Mädel, Ruck-Ruck-Ruck が歌われる。スペンサー・デイヴィスがドイツ語に精通していたこともあり、スペンサー・デイヴィス・グループはドイツでの人気が高く、この曲もドイツ語で歌われている。そのB面の Stevie’s Groove はスティーヴのオルガンをメインとしたインストナンバーで、両曲ともオリジナル・アルバムには未収録。