ライヴやセッション音源の発掘盤
スペンサー・デイヴィス・グループのスタジオセッションとライヴショウを収録した Mojo Rhythms & Midnight Blues の2枚は、どちらも非常に興味深い内容のアルバムだ。ブートレッグなどでもライヴ音源は出回っているが、音質・選曲の点でこの正規リリース盤は格段に素晴らしい。ヴォリューム1には1965~67年にかけて録音したスタジオセッションを収録し、ヴォリューム2にはヨーロッパ各地で行われたライヴショウを収めている。CDとLPの両フォーマットでリリースされており、アナログ盤ではウィンウッド兄弟脱退後の音源であるヴォリューム1の18~23曲目と、ヴォリューム2の最終曲が割愛されている。アートワークは両フォーマットとも同じコンセプトだが、タイトル周りの配置が微妙に異なっている(Collection 参照)。またCD、アナログ盤ともに曲表記にミスがあり、ヴォリューム1の1曲目はスペンサー・デイヴィスの持ち歌である Midnight Special と記載されているが、実際はスティーヴ・ウィンウッドのヴォーカルによる Midnight Train が収録されている。
収録曲の多くはオリジナル・ヴァージョンでお馴染みだが、ヴォリューム1は曲間にナレイションが入り、当時のラジオ放送を聞いている雰囲気がある。スタジオセッションはオリジナルに比べると格段にパワフルでノリが良く、こちらを聴いてしまったら原曲が物足りなく感じることもある。例えばオリジナルではそれほど目立つナンバーではなかった It’s Gonna Work Out Fine は、パワーとスピード感のあるプレイに一気に惹きつけられる。また I Can’t Stand It や Goodbye Stevie などのセッションテイクも臨場感に溢れていて新鮮だし、極め付けは代表曲の I’m A Man と Gimme Some Lovin’ で、オリジナル以上に黒っぽさを感じさせる素晴らしいプレイを聴くことができる。ヴォリューム2はさらに魅力的でこんな音源があったのかと驚くほど。収録地は英国、ドイツ、フィンランドで、なかでも英国ライヴにおける Stevie’s Blues は、スタジオテイクの原曲である初期ヴァージョンを収録。8分に及ぶスリリングなスロ-ブルーズで、スティーヴがピアノを弾きながら旋律に合わせて即興で歌うパートも聴きどころ。またフィンランドのテレビ番組用に収録されたスタジオ・ライヴも、名演揃いの必聴のステージとなっている。ハモンドオルガンを弾きながらの緊張感に溢れる Georgia On My Mind や、オリジナルよりも遅めのテンポでゴスペル調のオルガン伴奏によりじっくりと歌い上げる Together Till The End Of Time、スペンサー・デイヴィスの持ち歌 Dust My Blues で、スティーヴが弾くソリッドなギターソロなど、ティーンエイジとは思えないパフォーマンスを披露している。このフィンランドのステージは、映像集 Gimme Some Lovin’ Live 1966 でも観ることができる。ドイツのライヴはフランクフルトのテレビ番組 Beat Beat Beat 用に収録されたもので、映像では Please Do Something を含めた4曲をプレイしている。
2001年にヴァレーズ・サラバンド・レコードからリリースされた Live Anthology 1965-1968 も、スペンサー・デイヴィス・グループのライヴショウとスタジオセッション音源を集めた編集盤だが、ボーナストラック以外は先述の2枚と同じ音源である。こちらも曲表記に誤りがあり、3曲目は Midnight Special と書いてあるが、実際は Midnight Train が収録されている。収録の全20曲中後半の5曲がウィンウッド兄弟脱退後の録音で、そのうちボーナストラックとして収録された Mr. Second Class と Good Old Days は、1997年にスペンサー・デイヴィスが、ベニー・デリンジャーらと共に制作したアルバム Keep On Running からの選曲である。
【参考】フィンランドのTV番組用スタジオ・ライヴ収録は1966年とクレジットされているが、1967年2月収録という説がある。67年1月リリースのラストシングル I'm A Man を演奏していることからも、その可能性は高い。
Thanks to Mr.Vappi for the knowledge of LP “Mojo Rhythms & Midnight Blues”.