デモ・レコーディング
スペンサー・デイヴィス・リズム&ブルーズ・カルテットは、デビュー直前の1964年春にロンドンのフラミンゴクラブに出演した際、マイク・ヴァーノンの目に留まる。ヴァーノンは英ブルーズ界の立役者で、ブルーズ専門のレーベルであるブルーホライズンを設立した人物。ヴァーノンの勧めによりデッカ・スタジオで5曲のデモ・レコーディングを行うと共に、デッカとのレコーディング契約を求められた。しかしバンドはより有利な契約をフィリップスと交わすことを、アイランド・レコード社長のクリス・ブラックウェルと約束していたので、デッカとはサインはしなかった。カルテットはその後アイランドと契約、レコードは同社が原盤を制作しフィリップス傘下のフォンタナレーベルからリリースされた。後年マフ・ウィンウッドは「あれが本当に有利だったかは今でも分からないけど...」と語っている。
デモ・レコーディングの5曲のうち、デルタブルーズ・シンガーのビッグ・ボーイ・クルーダップ作 Mean Old Frisco のみ、60年代のブルーズロックを集めたコンピレイション盤 History Of British Blues に収録されている。本作はヤードバーズやグレアム・ボンド、アレクシス・コーナーなどのレア音源を収録した貴重盤だが、現在までのところCD化はされていない。これ以外の4曲のデモ・レコーディングは未発表で、Dimples は後に再録されデビューシングルになったジョン・リー・フッカーの曲。Help Me はサニー・ボーイ・ウィリアムスンⅡ、You’re So Fine はリトル・ウォルターのナンバーと思われ、いずれも当時のステージで歌われていたレパートリーである。Right Kind Of Loving の作曲者は不明だが、マフはデモ・レコーディングについて「僕らが曲作りをした初めての試みだった」と述べていることから、オリジナル曲である可能性がある。
【参考】デモ・レコーディングについてのマフの発言などは Eight Gigs A Week 掲載のライナーノーツを、デモ録音曲リストについてはクリス・ウェルチ著の伝記 Keep On Running に付録のディスコグラフィを参照。