アルバム概要
1964年のデビューから長らく在籍してきたアイランド・レコードを離れ、リチャード・ブランソン創業のヴァージン・レコードに移籍してリリースされた、スティーヴ・ウィンウッド5枚目のソロアルバム。共同プロデューサーに前作でエンジニアリングを担当したトム・ロード・アルジを迎え、ダブリンとトロントで録音された。全8曲中ウィル・ジェニングスとの共作が7曲、残る1曲を旧友ジム・カパルディと久々にペンを共にしている。本作には豪華なゲストは招かれていないが、ドラムのジョン・ロビンソン、ギターのポール・ペスコ、キーボードのロビー・キルゴアなど、前作で共演したセッション・ミュージシャンから選抜メンバーを起用している。スティーヴ自身もかなり多くの楽器をプレイすると共に、フェアライトのプログラミングやホーン・アレンジメントもこなしている。デジタル機器を積極的に導入し現代的に洗練された音作りではあるが、根底には50~60年代のアメリカン・ソウルやR&B的フレイヴァが漂っており、ウェイン・ジャクソンとアンドリュ・ラヴによる、メンフィス・ホーンズの起用もそのサウンドを特徴づけている。またパーカッショニストのバシリ・ジョンソンの名前もある。
大ヒットした前作を受けてプレッシャーを感じた部分もあったというが、アルバムの内容は自信に満ち溢れており、大々的なプロモーションも手伝ってソロ初の全米最高位を獲得した。ジャケットの黒髪オールバックに黒革ジャケットとホワイトシャツというスタイルは、まったくスティーヴらしからぬ雰囲気だが、これは米国法人を設立して間もないヴァージン・アメリカのマーケット戦略による広報の一環らしい。スティーヴは多額の契約金を受け取る見返りに、本作をヒットさせてヴァージンの米国市場進出に一役買っている。またこのアルバムをリリースするまでの間には、ユージニア・クラフトンとの再婚や、初のジュニア誕生など私生活においても幸せな出来事が続いた。一方でタイトル曲が盗作疑惑で訴えられるという問題も発生している。皮肉にもスティーヴがファンであると公言する、ジュニア・ウォーカー&ザ・オールスターズのヒット曲 Roadrunner がその対象曲であった。
収録曲について
突き抜けるようなハイトーンヴォーカルが冴え渡る表題曲 Roll Wit It では、スティーヴは久しぶりにマルチプレイヤーぶりを発揮しており、ハモンドオルガンやピアノはもちろん、ギター、ベース、ドラムズまで多重録音している。そしてメンフィス・ホーンズによるホーン・アレンジメントが、アメリカン・ソウルっぽいサウンドを演出する。この曲は Higher Love に続く2枚目の全米ナンバーワン・シングルとなり、ビルボードの1988年トップソングにも選ばれた。ヴァージンにおけるデビューシングルでもあり、冒頭のドラムフレイズはアイランドのデビューシングル Paper Sun を想起させる遊び心もある。Holding On もタイトル曲の雰囲気をそのまま受け継いで、女声コーラスとホーンセクションが活躍。スティーヴはギター、キーボード、ハモンドオルガンをプレイしている。ミディアムテンポの The Morning Side とノリの良い Put On Your Dancing Shoes は、ホーンセクションを入れないシンプルな音作りで、スティーヴはモーグベースやキーボードをプレイしている。
Don’t You Know What The Night Can Do? は、フェアライトとキーボードが奏でる流麗なメロディが全編を包み込むミディアムテンポの曲で、タイトルフレイズを歌う女声コーラスとの掛け合いもスリリング。セカンドシングルとしてカットされ全米第6位まで上昇、ツアースポンサーであるビール会社のCMにも起用された。Hearts On Fire は旧友ジム・カパルディとの久々のコラボレイションで、ユージニアとの出会いを歌ったストレートなロック。ホーンセクションを効果的に導入し、スティーヴのハモンドオルガンも実に楽し気な本作におけるベストソングのひとつ。One More Morning は朝焼けの情景を思わせるスローテンポの優雅な曲で、スティーヴによるホーン・アレンジメントはどことなく東洋風なイメージ。天に召されたスティーヴの母親に捧げられている。ラストの Shining Song で控えめだったミニモーグ・ソロが登場し、トム・ロード・アルジもタンバリンで参加。歌詞の各節には、愛娘のメアリ・クレア、妻のユージニア、そして母親へのメッセージが織り込まれている。