トラフィックのシングル
英国におけるトラフィックのデビューシングル Paper Sun は、アイランド・レコードからウィンウッド=カパルディ作品として初めて世に出た曲で、スペンサー・デイヴィス・グループ脱退直後の1967年5月にリリースされた。当時スティーヴ・ウィンウッドが関わっているという情報はあったが、バンドの詳細は一切明かされずに発表に至りながら、UKチャートの第5位に達するヒットを記録した。スティーヴはヴォーカル、オルガン、ピアノ、ベースをプレイ、ジム・カパルディのドラムズとパーカッションに、クリス・ウッドのサックスとフルート、それにデイヴ・メイスンのシタールが加えられて、サイケデリックに彩色されたこの曲は、まさに時代を象徴する作風になっている。才腕ジミー・ミラーによるトラフィック初プロデュース作品である。
セカンドシングルの Hole In My Shoe はデイヴ・メイスンが初めて書いた曲で、シタールを大々的にフィーチュアしたサイケ風のラーガロック。67年8月にリリースされファーストを上回るチャート第2位のヒットを記録したが、そのコマーシャルな曲調は他のメンバーがバンドに求める音楽性とは異なっていたという。最近のインタヴューでデイヴは「かわいい曲だが自分の書く曲は好きになれなかった」と回想している。Smiling Phases はこれにカップリングされていた曲で、スティーヴの力強いヴォーカルが聴ける爽快なロックナンバー。オルガンはスティーヴ、ギターはデイヴが弾いている。Here We Go Round The Mulberry Bush は4人共作によるトラフィック3枚目のシングルで、67年11月のリリースでチャートの第8位を記録した。68年公開の映画「茂みの中の欲望」のサントラに使われ、リードヴォーカルをスティーヴが歌うフルートを効果的に使った牧歌的な曲。
4枚目の No Face No Name No Number は、68年2月にリリースされたファーストアルバム Mr. Fantasy 収録曲で、そのB面にはセカンド Traffic に収録される Forty Thousand Headmen が長いタイトルで先行発表されている。5枚目のデイヴ・メイスン作 Feelin’ Alright? は、68年9月リリースで、ジョー・コッカーをはじめ多くのカヴァーを生んだ名曲。「セカンドアルバムからシングルに選ばれたのが自分の曲だったので、他のメンバーから反感を買いバンドに居づらくなった」と、デイヴは最近のインタビューで述べている。68年12月リリースの6枚目のシングル Medicated Goo を最後にトラフィックは活動休止を迎える。同曲とB面の Shanghai Noodle Factory は後にサードアルバム Last Exit に収録された。活動再開後は英国ではしばらくシングル・リリースはなかったが、ラストアルバム When The Eagle Flies から久々に、74年10月に7枚目のシングル Walking In The Wind がカットされた。
米国でリリースされたシングルはほとんどが英国と同じラインナップで、時期的には英国発売から2か月ほど遅れて、米国における配給会社であるユナイテッド・アーティスツからリリースされている。70年7月の Empty Pages と翌年9月の Gimme Some Lovin’ のライヴ・ヴァージョンは、米国のみで発売されており、英国ではプロモーション用に配布されるに留まった。また Live Traffic を機にユナイテッド・アーティスツとの配給契約を終えたあと、71年12月に Rock And Roll Stew が米国限定でアイランド・レコードからリリースされている。また No Face No Name No Number は米国ではリリースされていないと思われる。
【参考】Gimme Some Lovin’ はスペンサー・デイヴィス・グループ時代の曲で、ライヴ盤 Wellcome To The Canteen 収録曲。Rock And Roll Stew はアルバム The Low Spark Of High Heeled Boys 収録曲のロングヴァージョンで、リマスターCDのボーナストラックで聴くことができる。シングルでは両曲とも2パートに分割して収録されている。
EPと80年代以降のシングル
英国におけるトラフィックの唯一と思われるEP盤 Hole In My Shoe は、バンド解散から約4年後の1978年3月にリリースされたが、この時期における発売の経緯は不明。内容はタイトル曲を含む初期4枚のシングル・ナンバーで構成されている。88年には英クリケット選手イアン・ボザムによる、白血病研究基金をサポートするイベント Hannibal Walk のためのチャリティーシングルとして、Hole In My Shoe がリリースされている。
1994年のトラフィック再結成アルバム Far From Home からは、ファーストシングルとして Here Comes A Man が5月にリリースされ、米7インチとCDシングルには同曲のロック・ミックス・ヴァージョンを収録、それに93~94年の再結成ツアーで録音されたアメリカでのライヴ音源から Glad をカップリングしている。同年9月に米7インチと英CDシングルでリリースされた Some Kinda Woman は、トム・ロード・アルジのシングル・ミックス・ヴァージョンを収録。先と同じアメリカ・ツアーのライヴ音源から Forty Thousand Headmen をカップリング、CDシングルには同ライヴ音源の The Low Spark Of High Heeled Boys を追加収録している。