アルバム概要
トラフィックは1968年3月から初のアメリカツアーに出発した。ベースレスのトリオ編成で、ジム・カパルディのドラムズにクリス・ウッドのフルートとサックス、スティーヴ・ウィンウッドはリードオルガンにフットペダルを駆使してベースパートも兼任、スティーヴがギターをプレイする時はクリスがオルガン担当することもあった。また3人はツアーに先駆け、68年の早い時期からセカンドアルバムのための曲作りを開始し、ロンドンのオリンピック・スタジオにてレコーディングも実施していた。一方ファーストアルバムのリリース直後に脱退したデイヴ・メイスンは、ロンドンやアメリカにてセッション活動やプロデュース業に携わるほか、単身ギリシアのイドラ島に渡り Feelin’ Alright? など曲作りに励んでいた。デイヴがトラフィックと再会したのは、ちょうど渡米していた4~5月頃と思われる。互いにそれぞれ5曲前後の持ち歌があったので、セカンド・アルバムを完成させるためにデイヴはトラフィックに復帰、主にニューヨークのレコード・プラント・スタジオで録音することになったという。プロデューサーは前作と同じジミー・ミラー。エンジニアはエディ・クレイマーに加え、グリン・ジョンズ、ブライアン・ハンフリーズ、テリー・ブラウンの名がクレジットされている。アルバムのデザインコンセプトはジム・カパルディが担当している。
セカンドアルバムはわりと短期間で制作されており、前作のようなトータルコンセプトを持たず収録曲それぞれが独立している。しかし各曲のクオリティの高さと卓越した演奏からは各メンバーの成長が感じられ、Pearly Queen や Feelin’ Alright? などのトラフィックを代表する名曲や、Forty Thousand Headmen のような、今後の方向性を示唆する凝った曲が誕生していることも見逃せない。またデイヴとその他のメンバーとの音楽的な相違が如実に現れている点も、このアルバムの特徴といえる。スティーヴ、ジム、クリスの3人のペンによる曲と、まったく趣向の異なるデイヴの曲が交互に並ぶ本作を聴くと、それを明確に感じることができる。スティーヴが関わった曲は、R&Bをベースにした曲調にソウルフルなヴォーカルが絡むどちらかというと渋めの方向性、一方デイヴのほうはスワンプやフォーク寄りの曲調に、持ち前のキャッチーなメロディが際立っている。そんな両者が生み出したタイプの異なる作品が、絶妙なバランスをもって1枚のアルバムに共存し得たことが、成功の要因であったといえる。本作の高い完成度はサードアルバムへの期待を募らせるものだったが、68年10月のリリース直後にデイヴが脱退、再びトリオになったトラフィックはアメリカなどで精力的にコンサートを行った。しかし間もなくスティーヴも新たなる道を歩み始め、明確な解散宣言はなかったが、トラフィックとしての活動はここで一端ピリオドが打たれた。
収録曲について
ポップセンスに溢れるデイヴの曲 You Can All Join In で幕を開ける。アコースティックギターを自身が弾き、リードギターとベースはスティーヴが担当、ジムのドラムズにクリスのテナーサックスも活躍する。雰囲気はガラリと変わってウィンウッド=カパルディ作の Pearly Queen が続く。幻想的で黒っぽい雰囲気のメロディにシュールな歌詞も素晴らしく、トラフィック・ソングのなかでも突出した完成度を誇る名曲といえる。4月にレコード・プラントにて録音されており、スティーヴはオルガン、ギター、ベースとマルチに演奏。エンディングのハーモニカはデイヴ。Don’t Be Sad はデイヴの作品で、泣き節のヴォーカルが曲調にふさわしい。デイヴはギターとハーモニカをプレイ、スティーヴはオルガンとソロで歌うパートもあり、デイヴのヴォーカルとのコントラストが面白い。スティーヴの黒っぽいハイトーンヴォーカルが冴える Who Knows What Tomorrow May Bring は、ジムのドラムズとパーカッションにスティーヴのオルガンがリード。クリスとデイヴは録音に携わっておらず、シンプルな曲構成に抜群のセンスを感じさせる。シングルヒットしたA面ラストの Feelin’ Alright? は、トラフィックのキャッチーな面を代表するデイヴ作フォーク・ポップの名曲。リードヴォーカルとアコースティックギターはデイヴ、ピアノとコーラスをスティーヴがバックアップする。
Vagabond Virgin はデイヴとジムの共作曲でリードヴォーカルもこの二人が歌う。リードとアコースティックギターはデイヴ、ピアノはスティーヴ、クリスはフルートを吹いている。Forty Thousand Headmen はデイヴが脱退していた1月にオリンピック・スタジオで録音した曲で、ファーストアルバムの雰囲気と後期トラフィックのスタイルを合わせ持つような作品。クリスのフルートが幻想的な雰囲気を創りだし、スティーヴの物憂げなヴォーカルと解け合う。スレイベルとコーク缶の効果音もクリスによる。Cryin’ To Be Heard はドラマティックに盛り上がるデイヴの力作で、多彩な表情を見せるヴォーカルが素晴らしい。またスティーヴによる絶妙なバックヴォーカル、ハープシコード、オルガン、クリスのサックスなどが効果的な彩りを加えていく。儚いメロディーのクラシカルな No Time To Live は、静寂に包まれた夜に奏でられる悲歌のような曲で、むせび泣くサックスと哀愁を帯びたスティーヴのヴォーカルとピアノが美しい。デイヴはオルガンで参加、オリンピック・スタジオで5月に録音された。最後の Means To An End はノリの良いカントリー風のナンバーで、ジムのドラムズとパーカッション以外の楽器とヴォーカルはスティーヴによる。ブラインド・フェイスのステージ・レパートリーに加えられた。
ボーナストラック
セカンドアルバム Traffic のリマスターCDは、英米盤でボーナストラックの収録内容に違いがある。英国盤リマスターCDには、映画「繁みの中の欲望」のサントラ盤 Here We Go Round The Mulberry Bush からタイトル曲を含め2曲と、アルバム Last Exit にも収録されている、1968年のシングル Medicated Goo など3曲がボーナストラックとして追加されている。また米国盤リマスターCDにも3曲のボーナストラックが追加されている。このうち You Can All Join In と Feelin’ Alright? は貴重なモノラル・シングルミックスを収録、Withering Tree はステレオ・シングルミックスを収録している。2003年に登場した国内盤紙ジャケCDは、米国盤リマスターCDに準じている。なおファーストアルバムと同様、セカンドアルバムにもモノラルとステレオ・ミックス両方のカタログ番号が存在する。ファーストのほうは英米盤リマスターCDにて、両ミックスを聴くことができるが、セカンドのリマスターCDは、現在のところステレオ・ミックスのみがリリースされている。ただしセカンドのモノラル・ミックスのオリジナル盤が、実際にリリースされたのかは不明で現物は確認できていない。