ラジオ番組用のスタジオライヴ
アルバム John Barleycorn Must Die のリリースを控えた1970年4月30日、スティーヴ・ウィンウッド、ジム・カパルディ、クリス・ウッドの3人は、全新曲を含むトラフィック・ナンバー10曲を、ロンドンのパリ・シアターにてスタジオライヴで演奏、これがBBC1のラジオ番組用に収録された。放送日は同年5月10日で、77年12月23日にも再放送された。そして近年この音源のオリジナルマスターが発掘され、2020年に主に放送用音源を取り扱っている英国のインディーズレーベルより、CDとアナログ盤にてリリースされた。また日本でもブックレット対訳付の国内仕様輸入盤が発売されている。当時のライヴ音源としてはかなり良好な音質を保っていると思われる。
各曲間にDJとして有名なジョン・ピールによる解説が入るので、音源からメンバーの演奏パートの展開がある程度判る。スティーヴはインストの Glad 以外の全曲でヴォーカルと、Who Knows What Tomorrow May Bring から No Time To Live までオルガンをプレイ、Medicated Goo から Stranger To Himself まではギターに持ち替えており、途中 John Barleycorn ではアコースティックギターを演奏、後半の Empty Pages ではエレクトリックピアノ、Glad と Freedom Rider で再びオルガンを弾いている。クリスはフルートとテナーサックスの他、オルガンとエレクトリックピアノ、パーカッションも担当、Medicated Goo ではエレクトリックサックスでベースパートを受け持ち、John Barleycorn ではトライアングルとマルチプレイぶりを発揮している。ジムはドラムズに加え Medicated Goo でヴォーカル、John Barleycorn はスティーヴとデュオでタンバリンをプレイしている。スタジオ録音の同じ曲と比較するとヴォーカルも演奏も粗削りだが、それがまたスリリングかつパワフルで面白く、アレンジの違いや即興パートの盛り上がりなど、ライヴならではの臨場感が生々しく記録されている。ファン必聴のライヴといえよう。
ジョン・ピールは、週刊音楽紙 Disc & Music Echo の当時のコラムに以下のように書いている。「おそらく今週最大の喜びは、月曜のラストに演奏したトラフィックからもたらされた。ギターをかなり弾いていたスティーヴだが、その演奏はとても良かった。新鮮かつ独創性にあふれ、うるさ過ぎず、そしてブルーズのクリシェ(典型的なフレーズ)がひつもなかった。バンドからは演奏を楽しんでもらいたいというフィーリングが伝わり、結果的にブラインド・フェイス以前より良いサウンドを聴かせてくれた。クリス、ジム、スティーヴが戻って来てくれて嬉しい限りだ。」