アルバム概要
スペンサー・デイヴィス・グループの The Second Album はタイトル通り2枚目のアルバムで、ファーストから約半年後の1966年1月にリリースされた。これに先駆けて発表された5枚目のシングル Keep On Running が、UKチャートで初のナンバーワンを獲得するという大ヒットを記録、スペンサー・デイヴィス・グループは一躍スターダムに上り詰めていた。当時は地元のバーミンガムだけでなく、ロンドン、リヴァプール、ニューキャッスルなど、英国各地でのパフォーマンスに多忙な日々を送っていた。結成からしばらくの間はツアーをサポートするスタッフもなく、メンバー自らヴァンを運転して移動していたが、次第に限界を感じ始めたマフ・ウィンウッドは、知人のジョン・グローヴァーにバンドのローディ役を依頼した。グローヴァーはこれを切っ掛けに60年代から多くのミュージシャンのツアーマネージャを務め、後にマネージメント会社を立ち上げ、ゴー・ウェストら多くのミュージシャンをサポートしている。スペンサー・デイヴィス・グループはそんな多忙なスケジュールの合間に、2作目のレコーディングをファーストと同じく短期間で一気に完了させた。本作には前述の大ヒットシングルに加え、4枚目のシングル Strong Love と、そのB面曲でトラディショナルをアレンジした This Hammer を収録。オリジナルナンバーは、スペンサー・デイヴィスとスティーヴ・ウィンウッドの共作による Hey Darling のみとなっており、その他はメンバーの音楽的な趣味を反映した多様なカヴァー曲で占められている。そのためオリジナリティに欠ける点は相変わらずではあるが、選曲やアレンジ面においては前作以上のこだわりが感じられる。またレイ・チャールズの秀逸なカヴァー Georgia On My Mind に代表されるように、いくつかの曲では確実に表現力の幅を広げており、スティーヴを中心としたメンバー全員の音楽的な成長を感じ取ることができる。セカンドアルバムはUKアルバムチャートの第3位まで上昇、18週間チャートインし続けた。
収録曲について
Look Away はソウルシンガーのガーネット・ミムズのカヴァー。ゴスペル調の女声コーラスを入れた完成度の高い仕上がりで、アレンジと演奏にメンバーの音楽性の深まりを感じさせる。Keep On Running は大ヒットを記録した5枚目のシングルで、作曲者のジャッキー・エドワーズは、クリス・ブラックウェルが見出したジャマイカ出身のソングライター。スカのリズムが強調されていた原曲をメンバーがアレンジし、当時としては珍しいファズペダルを使った。この曲を聴いたアメリカの某ラジオ局スタッフが黒人のパフォーマンスだと勘違いし、米国で放送されない要因となった。ジミー・クリフがバックヴォーカルで参加。This Hammer のクレジットはメンバー共作だが、レッドベリーも歌っていたトラディッショナル・ワークソングをアレンジしたもの。ヴォーカルはスティーヴだが、どちらかというとスペンサー好みのカントリーナンバー。Georgia On My Mind はジャズフィールドの作曲家ホーギー・カーマイケルの代表作。レイ・チャールズのレパートリーでもあるこの曲を、スティーヴはティーンエイジとしては抜群のセンスで歌いこなしており、エリック・クラプトンも「目を閉じて聴けばレイ・チャールズそのものだ」と自伝の中で絶賛している。レイ・チャールズはスティーヴに多大な影響を与えた人物で、「変声期に真似ていたらレイのようにソウルフルな声になった」という話は有名だ。Please Do Something はソウル系シンガー・ソングライターのドン・コヴェイの曲で、シングルヒットも期待できそうなメロディアスなナンバー。Let Me Down Easy はソウルシンガーのベティ・ラヴェットが歌っていたスローバラードで、スティーヴの愁いのあるヴォーカルが魅力的。
Strong Love はマリバスというカリフォルニアのローカルバンドの曲で、知り合いのレコードコレクションから発掘したという。ハードなリズムとコーラスが特徴のノリの良いナンバーで、シングル4枚目としてリリースされたがブレイクするほどのインパクトには欠けていたようだ。I Washed My Hands In Muddy Water はスペンサーがリードヴォーカルをとるカントリー風の曲で、スティーヴはコーラスとオルガンでサポートする。カントリー系シンガーのチャーリー・リッチ、ストーンウォール・ジャクソンらが録音している。Since I Met You Baby もスペンサーがリードヴォーカルをとる牧歌的なスローバラードで、アイヴォリー・ジョー・ハンターの代表曲。You Must Believe Me はカーティス・メイフィールドのインプレッションズ時代のヒットナンバーで、オリジナルと同様ポップセンス溢れるプレイをしている。本アルバム中唯一のオリジナルナンバー Hey Darling は、スペンサーとスティーヴの共作曲。スティーヴの渋いヴォーカルが聴ける5分近いスローブルーズで、初期のオリジナル曲としてはなかなかの力作。Watch Your Step はモダンブルーズ・シンガーのボビー・パーカーのヒット曲。ラストに相応しいノリの良い曲で、スティーヴのリードヴォーカルとコーラスの掛け合いも息が合っている。
Thanks to Mr.Vappi for the picture image of LP “The Second Album”.
ボーナストラック
スペンサー・デイヴィス・グループの3枚のオリジナルアルバムは、2006年に日本にて紙ジャケ仕様のリマスターCDで復刻リリースされた。サブタイトルで「コンプリート・コレクション」と銘打つ通り、オリジナルアルバムには未収録の豊富なボーナストラックを追加しており、3枚でスペンサー・デイヴィス・グループの公式録音曲の全てをカヴァーすると共に、米国マーケット向けにアレンジされた貴重なヴァージョン違いもほぼ網羅している。唯一オルガンを追加した Look Away のUSヴァージョンだけが漏れており、これは米国ユナイテッド・アーティスツのアルバム I’m A Man で聴くことができる。なお輸入盤のオリジナルアルバムは、現在までのところ正規にはCD化されていない。
Stevie’s Blues は6枚目のシングル Somebody Help Me のB面曲で、メンバー4人のペンによるスローブルーズ。オリジナル作品の中でも完成度が高く、初期ヴァージョンを Mojo Rhythms & Midnight Blues Vol.2 で聴くことができる。Trampoline はスティーヴの軽やかなオルガンをフィーチュアしたインストナンバーで、7枚目のシングル When I Come Home のB面曲。Back Into My Life Again はジャッキー・エドワーズとジミー・ミラーの共作で、シングルヒットを期待できそうなキャッチーな内容。以上の2曲はアイランドのべスト盤 The Best Of The Spencer Davis Group に収録されていた。Kansas City はウィルバート・ハリスンがヒットさせ、リトル・リチャードやザ・ビートルズもカヴァーした名曲。65年の英国でのステージを収録したもので、ライヴ特有の臨場感に溢れておりスティーヴのヴォーカルも白熱している。Oh! Pretty Woman は、66年のラジオ収録用にスタジオセッションで録音されたもので、ロイ・オービソンとは同名異曲。オリジナルはA.C.ウィリアムズ作曲によるブルーズで、アルバート・キングのレパートリーだった。以上の2曲はCD編集盤 Eight Gigs A Week に初めて収録された。
Det War In Schöneberg は66年にドイツ限定でリリースされたシングルで、このリマスター盤で初めてCD化された音源。戦前ドイツの作曲家ウォルター・コロのオペレッタ Wie einst im Mai からの曲で、これにメドレーでシュヴァーベン地方の民謡 Mädel, Ruck-Ruck-Ruck が歌われる。スペンサーがドイツ語に精通していたこともあり、スペンサー・デイヴィス・グループはドイツでの人気が高く、この曲もスペンサーによりドイツ語で歌われている。そのB面曲が Stevie’s Groove で、スティーヴのオルガンをメインとするインストナンバー。ラストの Stevie’s Blues はオルガンをオーバーダブしたUSヴァージョンで、先述のユナイテッド・アーティスツ盤 I’m A Man に収録されていた。