アルバム概要
英国グロスターシャの自宅敷地内に設立したニザータークドニック・スタジオにて、スティーヴ・ウィンウッドの単独作業により制作された、セカンドに続く文字通りのソロアルバム第2弾。大ヒットした前作の成功が制作意欲に拍車をかけたのか、ツアーを終えて間もない1981年の末にはアルバム制作に着手、翌年の6月にミックスまで終わらせている。そしてスティーヴとしては異例の速さの、前作から約1年半というインターヴァルをおいて9月にリリースされた。全曲の歌詞をウィル・ジェニングスが書下ろし、アートワークはトニー・ライトが担当、ジャケット裏面の写真はロック写真家のリン・ゴールドスミスが撮影している。演奏面ではバックミュージシャンを一切起用せず、すべての楽器演奏とプログラミング、ヴォーカルなどスティーヴ・オンリーだが、当時の妻であるニコルが2曲でバックヴォーカルをサポートしている。またレコーディングやミックスなどの技術面も、ジョン・クラークをアシスタントにスティーヴ自身が行っている。このように基本的なサウンドの方向性と製作工程はセカンドと同路線上にあり、姉妹作といえるほど共通項の多いアルバムに仕上がっている。しかし本作では曲作りを含めてよりシンプルかつスマートに仕上げた印象もあり、反面これがインパクトという点で若干弱くなってしまった感もある。とはいえ全編がポップセンスに溢れた明るいイメージで彩られ、ランニングタイムの短いメロディアスな曲が大半を締めているので、非常に聴きやすい内容となっている。
ところが本作は期待に反して、セールス的にはセカンドのような際だった成功を収めることはできなかった。スティーヴは再び自信を失ったようで、次のアルバム制作に着手するまでに長い休止期間をおくことを余儀なくされた。一時はミュージシャンとしてアルバムをリリースすることを諦め、プロデュース業かあるいは別の職業に転向しようとまで考えていたようだ。これを思い留まらせると同時に、さらなる飛躍を促すようなアドバイスをしたのが、絶大な信頼を寄せる実兄のマフ・ウィンウッドだった。スティーヴは当時を振り返り「昔から意見が異なることはたびたびだったが、結果的にはいつもマフが正しかった」と、誇らしげに兄のことを語っている。
収録曲について
トップを飾る Valerie はスティーヴの作品のなかでは比較的ポップな部類に入るメロディアスな曲だが、意外にもシングルヒットはせず全米第70位という結果に終わっている。しかし後年トム・ロード・アルジのリミックス・ヴァージョンが全米第9位のヒットを記録、さらにエリック・プリッズがダンスミュージックとしてサンプリングした Call On Me が、UKチャートのトップを獲得するなど、人の心をつかむ要素は確実にあったようだ。ウィル・ジェニングスによると、歌詞はシンガーソングライターのヴァレリー・カーターのことを想って書いたという。Big Girls Walk Away にはニコルがバックヴォーカルで参加。また同曲におけるヴォコーダーの使用は、翌年のリン・ゴールドスミスによるプロジェクト Will Powers にも生かされている。心地よいハモンドオルガンと愁いを帯びたヴォーカルが印象的な And I Go と、温もりのあるシンセサイザーが織りなす While There’s A Candle Burning の2曲のミドルチューンに続き、アルバム先行シングルの Still In The Game でAサイドが終わる。全米チャート第47位に留まったが非常にキャッチーなメロディを持った曲で、Valerie と共にスティーヴのポップな面を代表している。この曲にもニコルがコーラスで参加、素人とは思えない抜群の歌唱力を発揮しており、その姿はPVで見ることができる。
Bサイドはじっくりと聴かせる凝ったの内容の曲が並ぶ。ミディアムテンポの It Was Happiness は、珍しくアダルトな雰囲気で大人の哀愁を感じさせるナンバー。Help Me Angel は都会的に洗練されてはいるが、リズミカルで独特のファンク感が心地よい。この曲にはスティーヴがヴォーカルとキーボード、ギター、ドラムズ、モーグリバレイションをプレイする姿を合成したPVがあり、実際の録音現場を垣間見るようで興味深い。表題曲の Talking Back To The Night では、スリリングな曲調と緊迫感のあるヴォーカルにより、闇にもがく希望を失いかけた人間の姿が歌われている。この曲と、Valerie、Help Me Angel の3曲は、後日トム・ロード・アルジの協力によってリミックスが施され、1987年のベスト盤 Chronicles に収録された。ラストの There’s A River はウィル・ジェニングスの希望に満ちた詩を、賛美歌風の厳かな旋律でじっくりと聴かせるバラード。スティーヴの暖かみのあるヴォーカルと、本人が重ねるハーモニーも素晴らしい。この曲はアルバムがリリースされる10ヶ月ほど前に、クリスマス用シングルとしてリリースされたもので、カップリングの Two Way Stretch(スティーヴの単独作)は、アルバム未収録のヴォーカル入りレアナンバーである。