アルバム概要
ヴァージン・レコードからの第2弾、約2年半のブランクをおいてリリースされたスティーヴ・ウィンウッド6枚目のソロアルバムは、米国ナッシュヴィルと英国グロスターシャにあるホームスタジオの両方で録音された。再婚したユージニアがアメリカ人だったこともあり、スティーヴはナッシュヴィルと英国の両方に生活の拠点をおいていたようだ。リズムセクションにマイケル・ローズとラス・カンケル、ギターにラリー・バイロンとアンソニー・クロフォード、サックスにランドール・ブラムレットとジム・ホーンらを起用、パーカッショニストのバシリ・ジョンソンは前作から続いて参加している。スティーヴはハモンドオルガン、キーボード、ギター、ミニモーグ、ヴァイブ、ドラムズと相変わらずマルチプレイヤーぶりを発揮しているほか、フェアライト、キーボード、ドラムマシンのプログラミングも全てこなしている。また旧友ジム・カパルディがドラムズやパーカッションで数曲に参加、1曲をスティーヴと共作している。その他の7曲の作詞はゴールデンコンビのウィル・ジェニングスが書き下ろしている。プロデュースはスティーヴが単独で行い、エンジニアリングとミックスはトム・ロード・アルジが担当、非常に奥行き感のある良好な音質で録音されている。
アルバム全体の音作りは前作と比べてソフトかつアダルトな雰囲気になり、アメリカっぽさより英国寄りのサウンドに回帰した印象がある。私生活の幸福感がもたらす喜びや余裕が曲作りに影響したのか、明るくメロディアスなナンバーが目立つ。前2作ほどの商業的な成功を収めることはなかったが、各曲のクオリティはそれらと同等に非常に高く、リスナーを十分に満足させてくれる内容である。スティーヴはインタビューで「このアルバムはややトラフィックっぽい音になった」と述べているが、その方向性は4年後の、ジム・カパルディとのトラフィック再編アルバムに引き継がれることになる。しかしこれまで2年毎にコンスタントに制作されていたソロアルバムについては、本作を境にさらにインターヴァルをおくようになる。1994年にトラフィック名義でリリースした Far From Home を挟むとはいえ、次のソロアルバムはなんと7年後までリリースされない。
収録曲について
ランドール・ブラムレットによるメロウなテナーサックス・ソロで始まる You’ll Keep On Searchin’ を聴くと、前作との音作りの違いを如実に感じるが、スティーヴのソウルフルなヴォーカルとハモンドオルガンは健在で、より円熟味を増した深さがある。ギターを弾くアンソニー・クロフォードとは、2003年のアルバム About Time で曲作りを共にする。Every Day (Oh Lord) は幸福感がストレートに反映されたメロディアスな曲で、中盤にミニモーグが入るとセカンドやサードアルバムの頃のサウンドを彷彿とさせる。One And Only Man はジム・カパルディと共作し二人だけで録音している。ユージニアに対する思いが歌われていて、田舎で子供を育てよう~というくだりは、まさに夫婦二人の実生活を物語っているようだ。I Will Be Here は哀愁感溢れるスローナンバーで、儚さを感じさせるヴォーカルと美しいハモンドオルガンの音色が魅力的。アルトサックスはジム・ホーンがプレイしている。
Another Deal Goes Down はラリー・バイロンのスライドギターが激しく鳴り響くパワフルな曲で、スティーヴはハモンドオルガンを弾く。アルバムタイトルはこの曲の歌詞から引用されている。Running On は、前作の雰囲気を継承するようなアメリカン・ソウル風のナンバー。スペンサー・デイヴィス・グループの Keep On Running を意識したようなタイトルが微笑ましい。Come Out And Dance はスタジオライヴで一発取りしたかのような爽快な曲。スティーヴはハモンドとギターをプレイ、ジム・カパルディがドラムズで参加、ジム・ホーンやランドール・ブラムレットらのサックスも活躍する。In The Light Of Day は9分を超す大作で、数年後のトラフィックに繋がる方向性を示唆するような凝った音作りが素晴らしい。ここでの主役はスティーヴによるヴァイブラフォンで印象的なソロも披露し、ドラムズも自ら追加。バシリ・ジョンソンとランドール・ブラムレットがこれをサポートしている。